大切な歯、どうしても抜くほうがいいときがあります

健康な歯とお口が支える、私たちの命

 人の歯は親知らずをのぞけば28本。互いに協調し合って、咀嚼や発話など、私だちが生きていくための機能を果たしています。毎日お口のケアに励み、定期的に歯科に通っているあなた。1本1本の歯を大事にするのはとてもすばらしいことです。また、むし歯や歯周病になってしまった歯を、よりいっそうのケアと歯科治療で少しでも長くもたせていくというのも大切です。

 実際、「歯を多く残せている人ほど健康寿命が長い」というデータもあります。ですから、「1本でも歯を抜く」というのは、患者さんにとって重大な決断であるとともに、歯科医師にとっても慎重な判断が求められる処置です。

 ですがそれでもやはり、今後の治療の難易度や将来の全身の健康を考えたときに、「抜いたほうがいい歯」はあります。

歯医者さんが抜歯をすすめる理由

 「1本1本の歯を大事にすることは大切」としつつも、それでも歯科が抜歯をご提案するのは、たとえば次のようなケースです。

①歯根破折を起こして治る見込みのない歯

②重度の歯周病で治る見込みのない歯

③隣の歯に悪さをしている親知らず

④残根状態で治る見込みのない歯

 ①歯根破折を起こした歯、②重度の歯周 病の歯、④残根状態の歯は、細菌のすみかとなりがちです。元気なうちや免疫力があるうちは細菌の活動を抑え込めていても、けがや病気をして免疫力が落ちたり入院したときに、お口の中に細菌のすみかがあると、細菌が悪さをして全身に影響が波及することがあります(誤の性肺炎など)。ですから、細菌のすみかになっている歯は抜いておいた方がいいのです。

 また、①歯根破折を起こした歯は、そのままにしておくと、どんどん顎の骨が減っていきますし、②重度の歯周病の歯も、進行が止められない場合は、顎の骨が減っていきます。顎の骨が減るほど、入れ歯やインプラントなど、その後の歯を補う治療の難易度が上がります。くわえて、①歯根破折を起こした歯は、いまは何ともなくても、将来的に細菌感染が広がり、激痛をもたらすことがあります。

 ③傾いて生えて、隣の歯(第二大臼歯)にぶつかっている親知らずは、むし歯や歯周病などの原因となることが多いです。

 とはいえ、抜く・抜かないを最終的に決めるのは、もちろん患者さんご自身。歯科医師の説明をしっかり聞いて、「本当にこの歯はもう抜かなきゃダメなんだ」と納得したうえで決断いただければと思います。

 

引用参考文献:nico2023年12月

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