認知症の発症抑制に歯周病の予防を!
「歯周病を予防している人は認知症になりにくい」一日々の診療経験からこうした実感をもつ歯科医師は多いのかもしれません。このような実感を裏づける臨床研究は、近年つぎつぎと報告されてきましたが、これまで歯周病が認知症の発症にどう関与しているのかは謎に包まれていました。
しかし、九州大学の最新の研究結果から「アルツハイマー型認知症への Pg菌の関与」が科学的に証明されました。Pg菌とは、歯周病菌の中でも病原性が高い菌です。
「Pg菌が起こす炎症により、アルツハイマー型認知症の原因物質=老人斑アミロイードB(脳に溜まる異常なタンパク質、以下、アミロイド8)が体内に増えること」、それに加え 「Pg 歯がアミロイドBを脳内へと誘導していること」までが明らかになったのです。
なぜ歯周病菌が脳にまで悪さできる?
歯周病菌が歯の周りだけでなく、なぜ脳の病気の原因にもなるのでしょうか?
歯周病菌であるPg菌は、歯周病の炎症でできた歯ぐきの粘膜の破れ目を入口にして、歯ぐきの中、そして身体に入り込みます。
Pg菌が歯ぐきにたくさん入り込むと、免疫細胞は必死になって戦いますが、多勢に無勢で取り逃してしまいます。逃げおおせたPg菌は体内を巡るうえ、免疫細胞の過剰反応がアミロイドBを増加させるというさらなる困った事態を引き起こします。
アミロイドBはなぜ脳内に入り込める?
脳には「血液脳関門」という、門番のようにはたらく脳血管の機構があり、血液中の異物を通さない仕組みになっています。
では歯ぐきでつくられたアミロイドBは、どうやってこの厳しい関門をすり抜けて脳内に入り込むのでしょうか?
Pg菌は歯ぐきから血流に乗って頭部に到達し、血液脳関門を構成する血管壁の細胞にくっつきます。すると、Pg菌に抵抗する血管壁の細胞がカテプシンBをつくり出します。カテプシンBは、血管壁の細胞に「アミロイドBを脳内へと送り込む受容体」を増やします。この受容体から入り込めるようになったアミロイドBが長い時間をかけて脳内に蓄積し、株々に神経細胞を傷つけ脳を萎縮させ、アルツハイマー型認知症を引き起こすと考えられるのです。
Pg菌は、歯ぐきの粘膜を壊して歯ぐきに入り込んでアミロイドBを増産させるだけでなく、つくったアミロイドBを脳内へ輸送する役割も果たしていたわけです。
認知症を防ぐためにも、歯科で歯周病の治療と予防を受けましょう。
引用参考文献:nico2021年7月