自覚症状がないだけに……
糖尿病というのはやっかいな病気です。痛くもかゆくもなく、そのくせ一度慢性化すると、それからの人生、ずっと付き合っていかざるを得ないのです。自覚症状がないまま健康診断でひっかかって、糖尿病予備軍だとか、糖尿病にすでになっていることが判明しショックを受けた、というかたが大半ではないでしょうか。
糖尿病になると、すり傷、切り傷が治りにくかったり、傷が膿みやすくなったりします。そのほか、いやにのどが渇いて水分ばかりとっている、トイレに行くと尿がなんだか甘ったるいような臭いがするとか、または、からだがなんとなく重くてしんどいとか、近頃お腹がすいてよく食べるのにむしろやせてきた、などの兆候があります。思い当たるかたは、なるべく早期の検査をおすすめします。
歯の治療と糖尿病の深い深い関係
ところで、全身疾患である糖尿病が、歯科治療にとって不利な条件になってしまうということは、意外に知られていないのかもしれません。ふだん私たちはお口のことは歯科で、からだのことは医科で、とつい分けて考えがちです。歯科治療に持病の全身疾患が影響を与えると聞いても、ピンとこないかもしれません。でも、実際には関係おおありなのです。
傷が治りにくかったり、炎症を起こしやすい糖尿病の患者さんの場合、たとえば歯を抜いたり、歯ぐきを切って治療をする際、治療後の傷が治りにくく、感染を起こしやすいため、健康なかたの治療にくらべて特別の配慮が必要です。
また、血糖値をコントロールする治療を受けていなかったり、血糖値のコントロールがうまくいっていない患者さんの場合、健康なかたにとってはごく通常の歯科治療が、たいへんハードルの高い治療になってしまうことがあります。その際には、血糖値が十分コントロールされるまで治療を延期させていただいたり、大きな病院の口腔外科をご紹介することもあります。
安心・安全な治療のために!
私たち歯科医師は、安心・安全な歯科治療をご提供することを切に願っています。日ごろから血糖値をコントロールすることはもちろん、「たかが歯の治療だ」と思わず、必ず問診表や口頭で糖尿病であることを歯科医師に伝えましょう。また、患者さんによっては、治療後に何度が通院していただくこともあります。順調な回復のために、経過観察や消毒などの処置は必要だからです。ぜひご協力をお願いいたします。
引用参考文献:nico 2011年5月号